メンタルヘルスケア最新ガイド2025

目次

メンタルヘルスケアの重要性

心の健康がもたらすもの

メンタルヘルスは、私たちが日々の生活を豊かに送り、仕事や学業、家庭生活でのパフォーマンスを最大限に発揮するために欠かせない要素です。特に現代社会では、情報過多やストレスフルな環境が常態化しつつあり、心の健康を維持することが以前にも増して難しくなっています[1]。メンタルヘルスが十分に保たれていると、思考がクリアになり、対人関係もスムーズに進み、ストレスに対する耐性が高まります。その結果として、自己肯定感や幸福感が向上し、社会生活のあらゆる面でメリットが得られます。

社会的背景と心の負担

近年はテレワークの普及、SNSの浸透、そしてパンデミックによる生活様式の変化が著しく、個人の孤立感や不安感が高まっています[2]。自宅に長時間いることで生活リズムが乱れたり、オンライン上でのやりとりが増えることでコミュニケーション疲れが生じることもあります。こうした社会的背景からくるプレッシャーは、意識しないうちに私たちの心をむしばんでいくのです。しかしながら、周囲の環境を大きく変えるのは難しい場合が多いため、一人ひとりが自分のメンタルヘルスを守る術を学ぶことが求められています。

心理カウンセラーの視点

私たち心理カウンセラーは、クライエントと対話を通して、その方が抱える悩みや問題を見つめ直し、解決や緩和に向けてサポートを行います[3]。その中で感じるのは、セルフケアの大切さを知りながらも具体的な方法を知らないままに、あるいは自分を追い込んでしまいがちな人が多いということです。日々の生活の中で、ほんの小さなセルフケアから始めるだけでも、メンタルヘルスを守る大きな一歩となります。

メンタルヘルスにおけるリテラシーの重要性

メンタルヘルスについての知識を持つことは、自分の心身の状態を理解し、必要な助けを求める適切な行動のきっかけになります[4]。例えば、ストレスを感じたときや落ち込んだときに、「これは一時的な反応だ」と認識できるだけでも、不安を過度に膨らませることが防げます。自分のメンタルの不調に早い段階で気づき、専門家の力を借りるか、セルフケアを行うかの判断を的確に下せるようになるのです。

自分の状態を客観視する力

日記や定期的なセルフモニタリングを行うことで、自分がどのような状況でストレスを感じ、どのようなときにリラックスしているのかを把握できます[5]。これらのデータは、カウンセリングの場面でも有用です。客観的なデータをもとにして、どんなサポートや工夫が必要なのかが見えてくるため、自分の状態を知る第一歩として取り入れてみましょう。

周囲へのアプローチ

自分の心を守るためには、周囲の人に適切に助けを求めたり、コミュニケーションを円滑に図る力も大切です[6]。しかし、日本では「弱音を吐くこと=甘え」という価値観がまだ根強く残っています。そのため、誰かに相談することに抵抗を感じる人も少なくありません。それでも、自分のリソースだけでは乗り越えられない状態が長く続くと、さらに深刻なメンタルヘルスの問題を引き起こしかねません。周囲に適切にアプローチし、サポートを得ることを躊躇しない姿勢を持つことが重要です。

メンタルヘルスの悪化を招く要因

メンタルヘルスにおける悪化要因としては、過度の仕事や学業の負荷、人間関係のトラブル、環境の変化、経済的な不安などが代表的ですが、これらは複合的に作用し合います[7]。例えば、仕事でのストレスが高まると睡眠不足になり、疲労が蓄積して集中力が落ちることで、結果的に業務効率が下がり、さらにストレスが増すという悪循環が起きることがあります。このような連鎖を断ち切るには、普段からセルフケアの意識を高め、できる範囲で自身の心と体を整える方法を実践することが重要です。

ストレスホルモンと身体反応

ストレスを感じると、体内ではコルチゾールやアドレナリンなどのホルモンが放出され、心拍数や血圧が上昇し、交感神経が活発化します[8]。この生理的反応自体は決して悪いものではなく、危機的状況や緊急事態を切り抜けるために役立つシステムです。しかし、長期的に高いストレス状態が続くと、身体に大きな負担がかかり、不眠や倦怠感、免疫力低下などの症状が現れてくることがわかっています。

リスクの見極めと予防

メンタルヘルスを崩すリスクは個人差があります。大きな変化に弱い人や、孤立しやすい環境にいる人、もともと不安障害やうつ病の既往歴がある人などは、特に注意が必要です[9]。定期的な健康診断や自己チェック、家族や親しい友人からのフィードバックなどをもとにして、リスクが高まったときには早めに対処を始めましょう。その際には、カウンセリングや医療機関など、専門家のサポートを受けることが望ましい場合もあります。


セルフケアの基本原則

セルフケアとは何か

セルフケアとは、自分自身の健康や幸福を保つために行うあらゆる行動や思考を指します[10]。具体的には、バランスの良い食事や適度な睡眠、軽い運動をはじめ、趣味やリラクゼーション、マインドフルネスなどの心身を整える活動も含まれます。セルフケアを習慣化することで、自分のストレス反応を早期に察知し、必要に応じて調整するスキルを高められます。

自分を大切にする姿勢

「セルフケア」という言葉自体は比較的新しい概念ですが、根底にあるのは「自分を大切にする」というシンプルな考え方です[11]。自分のニーズを無視したり、他人ばかりを優先したりする傾向が強い場合、やがて心身に疲労がたまり、燃え尽き症候群のような状態に陥るリスクが高まります。「自分を甘やかすこと」と「自分を大切にすること」を区別し、自分自身のケアを積極的に行う姿勢を育むのが重要です。

日常の小さな選択から

セルフケアは何か特別な時間や場所を設けなければできないものではありません。日常生活の中での小さな選択が積み重なった結果として、総合的な心身の健康が形成されます[12]。例えば、昼休みに数分散歩してみる、仕事の合間に軽いストレッチをする、SNSの使用時間を制限するなど、ちょっとした工夫がセルフケアにつながります。

セルフケアの枠組み

セルフケアを構成する要素は多岐にわたりますが、代表的な枠組みとしては「身体的セルフケア」「精神的セルフケア」「社会的セルフケア」の3つが挙げられます[13]。身体的セルフケアは、睡眠や運動、栄養管理などを通じて肉体的な健康を保つ活動です。精神的セルフケアは、ストレスマネジメントやリラクゼーションなど、心の健康を直接的に支える行為です。社会的セルフケアは、良好な人間関係やコミュニティとのつながりを保つことで、孤立や不安を防ぐことにフォーカスします。

身体的セルフケアの重要性

体と心は密接に結びついており、身体の状態が悪いと精神的にも不調を来しやすくなります[14]。適切な睡眠時間を確保し、栄養バランスの良い食事をとり、適度に運動することで、ストレスに対するレジリエンスを高めることができます。また、定期的に健康診断を受け、必要であれば医師のアドバイスを受けることも重要です。

社会的セルフケアとコミュニティ

現代はオンラインのつながりが増えた一方で、直接対面での交流が減ったという人も少なくありません。人と直接会って話す機会が少ないと、孤立感が深まることがあります[15]。メンタルヘルスを維持するうえでは、趣味のコミュニティやボランティア活動など、何らかの形で他者とのつながりを持つことが大きな意味を持ちます。これらのコミュニティは情報共有だけでなく、感情面でのサポートも担ってくれるため、社会的セルフケアとして非常に有効です。

セルフケアを成功させるポイント

セルフケアを継続するためには、自分に合った方法を見つけることが重要です。たとえ健康に良いとされる活動であっても、自分自身が楽しめなかったり、負担に感じたりするのであれば長続きしません[16]。少しずつトライアンドエラーを繰り返し、自分が続けやすいセルフケアのスタイルを構築していくことが望まれます。

無理なく継続する工夫

例えば、運動が苦手な人がいきなり毎日ジムに通うと、それ自体がストレスになってしまう可能性があります[17]。その場合は、家の周りをウォーキングする、動画サイトの簡単なエクササイズを試すなど、ハードルを下げたところから始めるとよいでしょう。また、目標を高く設定しすぎると挫折しやすくなります。最初は「週に1回30分程度」でいいというように、継続可能な目標を立てることがポイントです。

ポジティブなフィードバック

セルフケアを行う上では、できたことをポジティブに評価し、自分を褒めることも大切です[18]。たとえ小さな一歩であっても、それを積み重ねていくことで自信とモチベーションが高まり、さらにセルフケアに取り組もうという意欲が湧いてきます。日記に「今日できたこと」を記録するなど、具体的な習慣を作るのもよい方法です。


ストレスマネジメント

ストレスの正体を理解する

ストレスとは、外的・内的要因によって心身が負荷を受ける状態を指します[19]。この負荷に耐えるために体内では自律神経系や内分泌系が働き、一時的な緊張や興奮状態が生じます。適度なストレスは成長の原動力ともなりますが、過度になると心身のバランスが崩れ、不調を招きます。ストレスがかかり続けると自分でも気づかないうちに疲れが蓄積し、慢性的な疲労感や集中力の低下、イライラなどの症状が出る場合があります。

ストレス要因の分類

ストレス要因は大きく分けて「物理的ストレス要因」「心理的ストレス要因」「社会的ストレス要因」が存在します[20]。物理的ストレス要因には騒音や温度変化などの環境要因、心理的ストレス要因には不安や恐怖、社会的ストレス要因には人間関係や経済的問題などがあります。これらが複合的に絡み合ってメンタルヘルスに影響を及ぼすため、自分がどの要因に最も影響を受けやすいかを知ることが大切です。

ストレスサインの見極め

ストレスが限界を超えてしまう前に、自分の中でどのようなサインが現れるかを知っておくことが予防に役立ちます[21]。例えば、頭痛、肩こり、胃痛、睡眠障害などの身体症状。あるいは、感情面でイライラが増えたり、落ち込みやすくなったりすること。また、判断力や集中力の低下など、行動面での変化も見逃せません。こうしたサインに早めに気づくことで、適切な対処を取ることができます。

ストレスコーピングの方法

ストレスコーピングとは、ストレス要因やその結果として生じる感情・思考に対して、対処・緩和するための方法や行動を指します[22]。コーピングには大きく分けて「問題焦点型コーピング」と「情動焦点型コーピング」の2種類があります。問題焦点型コーピングは、ストレスの原因を直接解決・軽減する行動を指し、情動焦点型コーピングは不安や恐怖などのネガティブな感情を緩和・発散する行動を指します。

問題焦点型コーピングの具体例

職場での業務量が過多でストレスを感じている場合、上司や同僚に相談してタスクを再調整する、業務の優先順位を見直すなどが問題焦点型コーピングに該当します[23]。このアプローチの利点は、根本的な原因にアプローチすることでストレス要因自体を軽減できる可能性が高い点です。しかし、状況によっては原因となる要因を直接変えられない場合もあります。

情動焦点型コーピングの具体例

原因を変えられない場合や、問題解決に時間がかかる場合は、心のケアに重点を置く情動焦点型コーピングが有効です[24]。たとえば、趣味やスポーツ、友人との会話などを通じて気分転換を図る、深呼吸やリラクゼーション法を取り入れてリラックスするなどの方法があります。ネガティブな感情を上手にガス抜きできると、結果的にストレスへの耐性が高まります。

ストレスマネジメントプランの作成

ストレス対策を習慣化するためには、あらかじめ自分用のストレスマネジメントプランを作成しておくと効果的です[25]。具体的には、「ストレスのサインを把握する」「どのような対処法を用いるかをリスト化する」「それをいつ、どのように行うかを計画に組み込む」という3ステップが推奨されます。

緊急時の対処リスト

特に、強いストレスやパニックに襲われたときのために、緊急時の対処リストを事前に用意しておくことは非常に有効です[26]。例えば、「大きく深呼吸を3回する」「無理に思考しようとせず、まずは身体をほぐす」「信頼できる友人や家族に連絡する」「専門機関に電話する」など、短時間で実行できるものを中心に挙げておくと役立ちます。いざというときに頭が真っ白にならないように、メモやスマートフォンのアプリなどで簡単に確認できる形にしておきましょう。

コーピングリストの更新

ストレスに対する感じ方や、効果的な対処法は人によって異なりますし、同じ人でもライフステージや環境の変化によって変化していくことがあります[27]。定期的にコーピングリストを見直し、「この方法はもうあまり効かなくなった」「最近は新たに○○を始めたら気分転換になった」というようにアップデートを行い、常に自分に合ったストレスマネジメントができるようにしておきましょう。


マインドフルネスとリラクゼーション

マインドフルネスの基礎

マインドフルネスとは、「今この瞬間に意識を向け、ありのままの自分の状態を受け入れる」ための心の持ち方です[28]。仏教の瞑想法から派生したもので、近年は医療やメンタルヘルスの分野でも広く活用されています。マインドフルネスを実践すると、自分の思考や感情を客観的に観察し、必要以上に反応しない姿勢を身につけやすくなります。

マインドフルネス瞑想の方法

初心者がマインドフルネス瞑想を行う場合、まずは5分程度から始めるとよいでしょう[29]。静かな場所で背筋を伸ばして座り、ゆったりと呼吸に意識を向けます。思考がさまよったら、「今、自分はこう考えているな」と気づき、再び呼吸に意識を戻します。このプロセスを繰り返すことで、思考を制御しようとせず、ただ観察する感覚を養います。

日常生活でのマインドフルネス

マインドフルネスは決して瞑想の時間だけにとどまらず、日常生活のあらゆる場面で応用可能です[30]。例えば、食事を味わうときや散歩をするときに、五感をフルに活用して「今」に集中することを意識してみましょう。スマートフォンを見ながら食事をするよりも、味覚や香り、食感に意識を向けた方が心身へのリラックス効果が高まり、満足感が得られやすくなります。

リラクゼーションテクニック

マインドフルネス以外にも、心身をリラックスさせる多様なテクニックがあります。自分に合った方法を見つけることで、効率的にストレスを解消できます[31]。代表的なリラクゼーションとしては、「呼吸法」「漸進的筋弛緩法」「イメージ法」などが挙げられます。

呼吸法

ゆったりと深い呼吸を行うと、副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が落ち着いてきます[32]。なかでも腹式呼吸は効果的とされており、息を吸うときにお腹を膨らませ、吐くときにお腹をへこませることで、身体全体に酸素がしっかり取り込まれてリラックスしやすくなります。焦りや緊張を感じたときに、意識的に呼吸を整えるだけでも、気持ちを落ち着かせる効果が期待できます。

漸進的筋弛緩法

漸進的筋弛緩法(Progressive Muscle Relaxation)は、筋肉を意図的に緊張させ、次に一気に緩めることで全身のリラクゼーションを促す方法です[33]。足先から頭の先まで、部位ごとに順番に行うことで身体の感覚に集中しやすくなり、副交感神経が働きやすい状態が作られます。緊張している部分を意識的に解放する練習にもなるので、ストレスがたまったときに実践すると効果的です。

イメージ法

リラクゼーションにおけるイメージ法とは、心身をリラックスさせる風景や場面を具体的に思い浮かべ、その感覚をリアルに味わう手法です[34]。例えば、波打ち際をゆっくり散歩している自分をイメージし、その際に感じる潮の香りや足元の砂の感触、波の音に意識を向けてみます。視覚だけでなく聴覚、触覚、嗅覚など五感を活用することで、実際にその空間にいるかのような安心感とリラックス効果を得やすくなります。

リラクゼーションを習慣化する

リラクゼーションテクニックは、一度や二度行っただけでは効果を実感しづらいことがあります。毎日の生活に取り入れ、習慣化していくことで、徐々にストレス耐性や心の安定感が高まります[35]。短い時間でも構わないので、朝起きたときや寝る前、仕事の合間など、自分の生活リズムに合わせてリラクゼーションの時間を確保してみましょう。

習慣化のコツ

リラクゼーションの練習を習慣化するためには、最初から長時間行おうとせず、短い時間で回数を増やす工夫が有効です[36]。また、スケジュール帳やスマートフォンにリマインダーを設定しておくと忘れにくくなります。さらに、同じ時間帯に行うことで、脳が「このタイミングはリラックスしてもいい」と学習しやすくなり、スムーズに入り込めるようになります。


心の回復力を高める

レジリエンスとは

レジリエンスとは、困難や逆境に直面したときに立ち直る力、あるいは復元力を指す言葉です[37]。この力が高い人は、失敗や挫折を経験しても、それを成長の機会と捉えて再び進むことができます。レジリエンスは生まれつきの素質も関係しますが、学習やトレーニングを通じて高めることが可能とされています。

レジリエンスを構成する要素

レジリエンスには、自分の感情を客観的に捉える力、問題解決力、柔軟性、楽観性、そして社会的サポートなど、複数の要素が複合的に関係しています[38]。自分でできること、できないことを区別し、できることに集中する姿勢も重要です。すべてを自力で解決しようと抱え込みすぎると、心身の負担が増え、逆にレジリエンスが下がることもあります。

心理的柔軟性の大切さ

レジリエンスを高めるためには、心理的柔軟性が大切です[39]。自分の思考や感情に囚われすぎず、必要に応じて思考の方向性を切り替える能力とも言えます。マインドフルネスはこの心理的柔軟性を育むのに役立つとされています。過去の経験や未来への不安ではなく、今ここでの現実に向き合うことで、課題を明確に捉え、前向きに取り組めるようになります。

ポジティブ心理学と自己肯定感

近年のポジティブ心理学の研究では、自己肯定感の高さがレジリエンス向上においても重要な役割を果たすことがわかっています[40]。自己肯定感が高い人は、自分の強みと弱みを正確に理解し、失敗しても「自分はダメな人間だ」と極端に否定しないで済むため、落ち込んだ状態からの立ち直りが早い傾向にあります。

成功体験と失敗の捉え方

自己肯定感を育む方法として、成功体験を積み重ねることが挙げられます[41]。小さな目標を設定し、それを達成するたびに自分を認め、褒めることで、「やればできる」という肯定的な自己イメージが育ちます。一方で、失敗を経験した場合にも、その事実をありのままに受け止め、「どこを改善すれば次はうまくいくのか」を考える姿勢を持つことが大切です。

感謝の習慣

ポジティブ心理学では、「感謝の気持ちを表す習慣」が自己肯定感の向上やレジリエンス強化に効果的だとされています[42]。毎日寝る前に、その日に感謝できる出来事を3つ書き出す「3つの良いこと」エクササイズなどが有名です。このようにポジティブな面に意識を向けることは、過度にネガティブに陥ることを防ぎ、困難に立ち向かう際の心の土台を作ってくれます。

自分軸を育てる

レジリエンスのある人は「自分軸」をしっかり持っています。これは周囲の期待や常識に振り回されず、自分の価値観を大切にしながら行動する力です[43]。自分の軸が明確であれば、たとえ周囲の環境が変化しても、自分にとっての最優先事項や方向性を見失わずにすみます。

価値観の明確化

自分軸を育てる第一歩として、まずは自分が大切にしたい価値観を明確にすることが必要です[44]。仕事や家庭、趣味、人間関係など、人生のさまざまな領域において、どのような状態が理想なのかを具体的にイメージし、それを言語化してみましょう。価値観を書き出すことで、自分が本当に望む生き方や目標が浮き彫りになり、ブレにくくなります。

自己対話の習慣

自分の軸を保つためには、定期的に自己対話を行い、今の自分の状況や行動が価値観と合致しているかを確認することが大切です[45]。日記に「今日の行動は自分の価値観に沿っていたか?」などの問いを設けるのも効果的です。ズレを感じたら、軌道修正するチャンスと捉え、今後の行動計画を再考します。


まとめ

今から始められる小さな一歩

ここまで紹介してきたメンタルヘルスケアやセルフケア、ストレスマネジメント、マインドフルネス、リラクゼーション、そしてレジリエンスの強化など、さまざまな方法があります。どれもが特別な資格や大きな予算を必要とするものではなく、日常生活の中に少しずつ取り入れられるものばかりです[46]。最初の一歩は、ごく小さな行動でも構いません。例えば、「朝起きたら3分間だけ深呼吸する」「昼休みに5分だけ散歩する」「夜寝る前に今日あった良いことを1つだけ振り返る」などから始めてみてください。

専門家との連携

日々のセルフケアは非常に重要ですが、もしストレスや不安が大きくなりすぎて自分だけでは対処が難しい場合や、不眠や食欲不振、強い抑うつ状態などが続く場合は、躊躇せず専門家に相談することをおすすめします[47]。心理カウンセラーや精神科医、臨床心理士などの専門家は、客観的な視点と専門知識をもってサポートを提供してくれます。自分の限界を知ることもセルフケアの一環です。

持続可能なメンタルヘルスへ

社会情勢の変化やライフステージの移り変わりによって、私たちを取り巻く環境は絶えず変化し続けています[48]。そこで大切なのは、一時的な対処法にとどまらず、長期的に心の健康を維持・向上させるための工夫を続けていくことです。ライフステージの変化に合わせてセルフケアの方法やコミュニティとの関わり方も更新しながら、持続可能なメンタルヘルスを目指していきましょう。


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